「ISLAND BREWERY」が長崎・壱岐島でクラフトビールをつくる理由

アイランドブルワリー

日本の47都道府県のなかで、唯一クラフトビールのブルワリーがなかった長崎県。そんな長崎の壱岐島・勝本で、2021年にオープンしたのが「ISLAND BREWERY(アイランドブルワリー)」だ。

ブルワリーを立ち上げたのは、焼酎をつくる酒蔵の5代目として生まれた原田知征さん。自身も焼酎づくりに邁進していたところから、クラフトビールのブルワリーを立ち上げた理由や、地元の壱岐への想いを伺った。

アイランドブルワリー代表・原田知征さん

アイランドブルワリー代表:原田知征
昭和50年(1975年)、原田酒造の5代目として生まれる。幼い頃より、家の中に漂う米を蒸す匂いやお酒の香りの中で過ごし、東京農業大学農学部醸造学科へ進学。26歳で地元に戻り、壱岐焼酎の製造に邁進。母校の東京農大で分離された花酵母を使用した日本初となる花酵母仕込み麦焼酎「なでしこ」「玉姫」の開発や、人気漫画『エヴァンゲリオン』とのコラボ焼酎の発売など、常に新しいことに挑戦。現在は、島内初かつ県内唯一となるクラフトビール造りに全集中。

目次

壱岐でクラフトビールをつくり始めた理由

── ブルワリーを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

原田酒造という焼酎と日本酒の酒蔵の5代目で、焼酎づくりをずっとやってきたんですけど、昭和59年(1984年)に壱岐の島の焼酎蔵のうちの原田酒造を含めた6社が協業化して1つの会社ができたんですね。

私もその会社に就職して、18年間焼酎づくりに励み、最後は社長を3年務めましたが、経営に対する考え方の違いから独立してクラフトビールづくりを始めました。

 

── クラフトビールをつくり始めたのは、どういうきっかけからなのでしょうか?

壱岐の島は、観光のお客さまが多いです。麦焼酎発祥の島なので、焼酎は必要。ただ、お客さまの動きを見ると、1杯目はビールという方がやっぱり多いんです。夏に観光客が多い島でもあるので、ビールとの相性が良い。

長崎だけクラフトビールがなかったと話しましたが、歴史を見ると、長崎はいろいろな文化が入ってくる窓口でした。

三菱グループ創設者の岩崎弥太郎さんや、彼が出資して1885年に設立されたジャパン・ブルワリー・カンパニー(キリンの前身の会社)に関わったグラバーさんも長崎にいらっしゃいました。

結果としてジャパン・ブルワリー・カンパニーの工場は横浜にできたけれど、長崎にできてもおかしくなかったのかなと思っています。

そういう歴史があるからこそ、長崎でビールを立ち上げようと考えました。

アイランドブルワリーのタップルーム

アイランドブルワリーのこだわり

── アイランドブルワリーのコンセプトはどのように生まれたのでしょうか?

前職の焼酎の会社を辞めたのが2018年、ビールをつくり始めたのは2021年からで、3年くらい準備期間を設けて、コンセプトやどういうブルワリーにしようかと考える時間を設けました。

後発のブルワリーになるので、コンセプトはしっかり決めたい。

焼酎会社のときから、乾杯のときはビールでとりあえず乾杯する。そのとき食卓にはお刺身が出ていたりする。焼酎屋の目線としては、お刺身なら日本酒や焼酎の方が合うのになと思っていました。

ラガー系のビールはお刺身との相性は良くないとされています。なので、お刺身と相性が良い日本酒や焼酎を飲んでくれたらいいなと。

壱岐には美味しい魚がたくさんあります。「魚にあうビールを作りたい」と考え、それをコンセプトに決めました。

 

── 焼酎をつくっていたときの経験がコンセプトにも活かされているんですね!そこから具体的な商品に、どのように落とし込んでいったのでしょうか?

コンセプトを決めたものの、どんなビールが魚に合うかわかっていませんでした。

そこで、日本全国から50種類くらいビールを取り寄せて、地元の友達に魚料理をたくさん作ってもらって、どんなビールが合うんだろうと飲み比べ、食べ合わせをしました。

その中で、柑橘系のホップをつかった北海道のビールがありました。お寿司とか白身魚にカボスや酢橘を搾って食べたりもする。それと同じイメージで、あっさりしたなかに柑橘の風味がするビールを合わせられたらと。

もう1つ、食中酒として考えたときに、酸味が必要だと考えました。白ワインみたいなビールをイメージしていたのですが、白ワインにはクエン酸がたくさん含まれています。

これまでずっとつくっていた麦焼酎に使う白麹が、クエン酸をたくさん持っている。白麹のクエン酸をビールにうまく活かせたら、魚に合うビールになるのではと考えました。

作ってみたら、本当にいいビールができて、それがアイランドブルワリーのフラッグシップの「GOLDEN ALE」になりました。

 

── アイランドブルワリーのビールはラベルなどとてもオシャレだなと思っていて、デザインに込めた想いもお伺いしたいです。

デザインはとても大切にしています。例えばロゴマーク。アイランドブルワリーのある勝本の街はイカ釣り漁船で栄えた街です。イカ釣り漁船の集魚灯をロゴのモチーフにしています。

暗い海で、灯りを焚いてイカを集めるように、ちょっと寂しくなった商店街にお店として明かりを灯すことで、人が集まる場所になればいいなという想いを込めたロゴマークです。

あとは、「魚に合う」がコンセプトのビールなので、海に関係したラベルにしています。僕が好きな海を写真で何枚か撮って、それをラベルにおこしました。

アイランドブルワリーのクラフトビール

GOLDEN ALEは、爽やかな夏のエメラルドグリーンの海です。

壱岐の海って、四季によって海の色が変わるんです。夏はエメラルドグリーン色で、冬から春はちょっと青みがかったような深い色になる。春の青みがかった海が、なんとなくIPAのイメージと合っていて、IPAのラベルにしました。

YUZU-KOJI ALEは、朝のキラキラした、朝日が海に反射しているところを表しています。

 

── それぞれのビールにおすすめのペアリングなどはありますか?

GOLDEN ALEは、お刺身やお寿司に合うように設計しました。

IPAは、フィッシュ&チップスに合うように設計したので、フィッシュフライなど、フライものがおすすめです。あとは、お肉とも相性が良いです。

YUZU-KOJI ALEは、カルパッチョなど柚子を使えるものや、餃子にも合います。お魚を使った鍋料理との相性も良いです。

ほかにも、いろんな食べ合わせをぜひ試してみてください。

アイランドブルワリーのクラフトビールとフード
アイランドブルワリーのクラフトビールとフード

なんでもそろっている島、壱岐の魅力

── アイランドブルワリーがある長崎・壱岐は、どんなところが魅力でしょうか?

壱岐はとても過ごしやすい島だと思います。

福岡県・博多港から高速船を使って1時間くらいとアクセスもよく、コンビニや大型スーパーマーケットもあって、生活に困りません。

日本の離島の中では珍しく平地が多い。なので、昔から稲作が盛んです。壱岐には長崎県の中で2番目に広い平野があって、だから、お酒づくりと焼酎づくりが発達しました。

壱岐・勝本

お米にしろ野菜にしろ、美味しい農作物が採れます。僕たちはお肉屋さんに連れていって、「お肉美味しいね」と言ってほしいのに、「野菜が美味しいよね」とよく言われます(笑)。

壱岐牛というブランド牛は、潮風を受けた牧草を食べながら育っているので、ミネラル分が多いと言われています。脂の質が柔らかいのが特徴で、特に年配の方で、脂を食べると胃がもたれることも多いかと思うのですが、「壱岐牛はそんなに胃にもたれない」と言っていただくことも多いです。

なんでもあるのが壱岐の島です。何かのテレビで「玄界灘の宝石箱」と言っていたのですが、まさにそんな感じ。

そこにさらにクラフトビールと、焼酎のメーカーも7蔵。日本酒でも、全国で賞を取るような有名な酒蔵があったりと、お酒の島でもあります。

本当に、なんでも揃っている島が壱岐なんです。

 

── 壱岐は景色も魅力的ですよね。

そうですね、海が見渡せる場所があったり、夜は星空が綺麗だったり。

あとは、壱岐に呼ばれているかどうかが一番のポイントです。来たときに雨だと、星空も楽しめない。なので、天候は大事です。

 

── 壱岐に訪れるとき、おすすめの季節はあるのでしょうか?

四季によって楽しみ方が変わるのも壱岐の魅力です。観光シーズンとしては夏ですね。海を楽しむのがメインで、海水浴される方や、泳がない場合は綺麗な海を見て帰る方が多いです。

ゆっくりしてもらうためには秋冬がおすすめです。壱岐の島には温泉もあるのと、冬になると採れる魚の種類も増えてくるし、脂ものって美味しくなる。そういう意味だと、美味しい食べ物を求めてくるなら、秋冬の方がいいですね。

あとは、春はウニが採れます。生ウニ丼を食べたいという人も来る。

4〜6月はウニが楽しめて、夏は海が楽しめて、秋冬は食と温泉が楽しめる。何を求めて壱岐にくるかで季節を選ぶと良いですね。

地元の壱岐・勝本の街に貢献したいという想い

── 地元に貢献したいという想いを強く持たれているように感じています。その原動力は何なのでしょうか?

生まれ育った壱岐島と勝本の街に、いずれは貢献したいという想いがありました。壱岐には大学がありません。高校を卒業した人は、島外に出て行きます。

人口が減っていき、島での仕事も減って、働ける場所がないから、帰りたい人も島に帰れなくなる。悪循環が続いている。その中で独立して、島で会社を作ることによって、勝本で雇用が生まれて街の活性化につながるのではないかと。

たまたま焼酎の会社を辞めるタイミングと、ビールをつくりたいと思うタイミングが一致して、自分が生まれ育った街でブルワリーを立ち上げました。

勝本の街は、島外と行き来する港や空港がなくて、スーパーもなくて、住んでいる人にとっては正直不便なんですよ。港があるところにスーパーやコンビニができたりするので。

そういう意味でいうと、商店街がシャッター商店街ではなく、ちゃんと残っている街が勝本です。布団屋さんとか洋服屋さんとかケーキ屋さんとかが、まだ商店街にちゃんと残っている。

なので、ちょっと整備はされているものの、昔のままの街並みも楽しめます。

壱岐・勝本の街並み
壱岐観光ナビより引用

勝本の街を活気づける何かが必要だなと思っていて、その方法がちょうどクラフトビールと一致したので、ブルワリーを始めました。

 

── ブルワリーを立ち上げてから今までで、変わってきたな、いい感じになってきたなと感じる瞬間はありますか?

人の動きが変わったと感じています。壱岐の人でも、勝本まで来る用事がなかった。先ほどお話しした通り、コンビニもないしスーパーもないし港もない。勝本に来たことがないっていう島の人もいるくらい、親戚に会うくらいしか来る理由がなかったんです。

そんな人たちが、新しくブルワリーができたからと勝本に来てくれて、今まで気にはなっていたと、ほかの居酒屋にハシゴで寄ってくれたり、勝本にも来てくれるようになりました。

観光のお客さまはより動きが変わってきていて、うちによってくれる方もけっこう増えてます。

アイランドブルワリーの近くには辰ノ島という、インスタで写真が投稿されるようになって人気が出た無人の海水浴場がある。昔ながらの街並みも残っているので、観光のお客さまが街歩きされたり。あと、壱岐イルカパークという施設もあります。

小さいエリアの中でいくつか回れてしまうから、観光でも人気が出てきている街です。

 

── クラフトビール目当てで壱岐に訪れる人が増えているのが素敵ですね。

クラフトビールって、横の繋がりがすごいなと感じています。

アイランドブルワリーができた当初、「新しいブルワリーができたらとりあえず寄るんだ」という方が、ふらっといらっしゃいました。

壱岐までよく来ましたねと色々と話をしていたのですが、「立ち上げ当初のブルワリーは味が安定していなくて、まだまだこれからだと思うことも多々ある。けれど、これは美味しいね。」と言っていただけました。

そのお客さまから「アイランドブルワリーが美味しい」と聞いたという別の方が、1ヶ月後くらいにいらっしゃいました。そこからさらにまた人が来てと繋がっていくコミュニティって面白いなと思いまして。

ビールで人を呼びたいなと思ってブルワリーを立ち上げて、それが少しずつ達成できている。月に何人かは、大阪から来ました、東京から来ました、美味しいと聞いて来ましたみたいな方がいらっしゃる。

そういうのは嬉しいし、街にちゃんと貢献できているなと感じる瞬間です。

アイランドブルワリー

あとがき

アイランドブルワリーのコンセプトや、実際に魚に合うビールは、原田さんが壱岐で焼酎づくりに全力投球していた経験があったからこそ生まれたのだと感じた。

そして、地元である壱岐の島に貢献したいという想いを常に持ち続け、行動に起こしているからこそ、実際に壱岐に訪れる人も増えているのであろう。

アイランドブルワリーのビールは全国の様々なお店でも販売されているので、まだ飲んだことがないという方は、ぜひ1度飲んでみていただきたい。

その上で、実際に壱岐に訪れてみてはいかがだろうか。

ISLAND BREWERY(アイランドブルワリー)
住所:長崎県壱岐市勝本町勝本浦249
タップルーム営業時間:10:00 – 22:00(L.O. 21:30)
定休日:-
Web:https://iki-island.co.jp/
Instagram:@islandbrewery
※最新の営業時間等はホームページ、SNS等をご確認ください。
※飲める飲食店・買える酒販店は、全国出荷情報をご確認ください。

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